労働参加率は「失業していない人」の統計ではない
労働市場を考えるとき、失業率に目が向きがちです。しかし、仕事を探している人だけを対象にする失業率では、働くことをめぐる社会全体の姿を捉えきれません。そこで重要になるのが、Labor force participation rate、つまり労働参加率です。
この指標は、一定の年齢以上の人口のうち、仕事をしている人と、仕事を探している人を合わせた「労働力」がどの程度いるかを示します。したがって、仕事をしていない人が多くても、その人々が求職活動をしていなければ、失業率には表れにくい一方、労働参加率には影響します。
労働参加率を見ると、雇用の多さだけでなく、どれだけの人が労働市場に接続しているかを考えられます。これは、人口の高齢化、若者の進学、家族のケア、健康状態、働き方への意識など、雇用統計の外側にある変化を読む手がかりにもなります。
最初に確認すべきは「分母」の違い
同じ「総労働参加率」と呼ばれる指標でも、分母となる年齢層が異なれば、意味は変わります。世界銀行の資料には、一定年齢以上の人口全体を対象にする指標と、働く世代に近い年齢層を対象にする指標があります。
前者は、若年層から高齢層までを含む社会全体の労働市場との関わりを示します。高齢者の人口が増えれば、就業や求職の状況が変わらなくても、全体の値が動く可能性があります。後者は、より就業年齢に近い層に焦点を絞るため、働く世代の参加状況を比較しやすいという特徴があります。
つまり、国や地域を比べるときは、数値の大小を見る前に、どの年齢層を分母にしているかを確認する必要があります。
| 指標の見方 | 主に分かること | 注意点 |
| 一定年齢以上の総人口を分母にする指標 | 社会全体の労働市場への参加 | 高齢化や人口構成の影響を受ける |
| 働く世代に近い年齢層を分母にする指標 | 就業年齢層の参加状況 | 高齢者や若年層の姿が薄くなる |
| 若年層を対象にする指標 | 学業と仕事の接点、若者の労働市場参加 | 進学率や職業訓練の違いを考慮する必要がある |
| 女性と男性を分けた指標 | 性別による参加状況の違い | 総合値だけでは差が見えにくい |
若年層の低さは、必ずしも悪いとは限らない
若年層の労働参加率は、教育制度や進学行動と深く関係します。学校に通う人が多い社会では、若者が労働市場に入る時期が遅くなることがあります。その場合、若年層の参加率が低くても、それだけで雇用環境が悪いとは判断できません。
反対に、若者が早く働き始めている場合でも、安定した仕事に就いているとは限りません。短時間の仕事、臨時的な仕事、学業と両立する仕事など、参加の形はさまざまです。若年層の指標を読む際には、参加しているかどうかだけでなく、教育、職業訓練、仕事の安定性を合わせて考える必要があります。
総合値だけでは男女差も隠れる
総労働参加率は、女性と男性の状況を一つにまとめた指標です。そのため、総合値が似ている国でも、男女それぞれの参加状況が大きく異なる可能性があります。
この違いを見るため、世界銀行には女性の労働参加率、男性の労働参加率、さらに女性の値を男性の値と比較する指標があります。これらを使うと、総合値の背後にある参加機会の偏りを確認できます。
ただし、男女差を単純に制度や個人の選択だけで説明するのは適切ではありません。育児や介護の分担、勤務時間の柔軟性、雇用慣行、税や社会保障の仕組みなど、複数の要因が重なって結果に表れるからです。
国内推計とILOモデル推計は役割が違う
世界銀行の労働参加率には、各国の統計を基礎にした「national estimate」と、国際労働機関のモデル推計を用いた「modeled ILO estimate」があります。
国内推計は、その国の調査や統計制度に基づく実態把握に向いています。一方、モデル推計は、国ごとに統計の方法やデータの空白が異なる場合でも、国際比較をしやすくする役割を持ちます。
両者の値が一致しないことは、直ちにどちらかが誤っていることを意味しません。定義、調査方法、利用できる情報、推計処理の違いが反映されるためです。分析では、同じ種類の指標を並べ、対象年齢、性別、推計方法をそろえて読むことが基本になります。
出典
- World Bank「Labor force participation rate, total (% of total population ages 15+) (national estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.CACT.NE.ZS
- World Bank「Labor force participation rate, total (% of total population ages 15+) (modeled ILO estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.CACT.ZS
- World Bank「Labor force participation rate, total (% of total population ages 15-64) (modeled ILO estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.ACTI.ZS
- World Bank「Labor force participation rate for ages 15-24, total (%) (national estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.ACTI.1524.NE.ZS
- World Bank「Labor force participation rate for ages 15-24, total (%) (modeled ILO estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.ACTI.1524.ZS
- World Bank「Ratio of female to male labor force participation rate (%) (national estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.CACT.FM.NE.ZS
- World Bank「Labor force participation rate, male (% of male population ages 15+) (national estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.CACT.MA.NE.ZS
- World Bank「Labor force participation rate, female (% of female population ages 15+) (national estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.TLF.CACT.FE.NE.ZS