「平均賃金」と「労働時間」は同じ表で比べる
平均賃金が高い国ほど、短い時間で効率よく働いているのか。反対に、長時間働く国ほど賃金も高くなるのか。こうした疑問は、国際比較でよく生まれる。しかし、ランキングを作るには、賃金と労働時間を同じ条件でそろえなければならない。
今回確認できた資料には、国別の平均賃金や労働時間の順位を示すデータは含まれていない。確認できるのは、日本の企業を対象にした賃金改定に関する数値である。そのため、資料だけを根拠に「平均賃金が高い国の労働時間ランキング」を作ることはできない。
これは単なる資料不足ではない。平均賃金には、正社員だけを含めるのか、パートタイム労働者も含めるのか、税引き前か税引き後か、物価の違いを調整するのかといった複数の条件がある。労働時間にも、実際に働いた時間を使うのか、契約上の時間を使うのか、残業を含めるのかという違いがある。
確認できる資料から見えること
今回の資料で示されているのは、企業規模計における一人平均賃金の改定率や、労働組合がある企業での賃上げ要求額などである。国際ランキングの元になる「国ごとの平均賃金」や「一人当たりの年間労働時間」とは、測っている対象が異なる。
| 資料で確認できる項目 | 時期 | 数値 |
| 企業規模計における一人平均賃金の改定率 | 2021年 | 1.6% |
| 企業規模計における一人平均賃金の改定率 | 2020年 | 1.7% |
| 労働組合のある企業における平均要求額・加重平均 | 2021年 | 5335円 |
| 労働組合のある企業における平均要求額・加重平均 | 2020年 | 7136円 |
ここで注意したいのは、賃金の改定率は「その年に賃金がどれだけ変わったか」を示す指標であり、国民や労働者の平均賃金水準そのものではない点だ。また、平均要求額は賃上げ交渉における要求の平均であって、実際に支払われた賃金や、国際的な所得水準を直接表すものでもない。
ランキングで見落としやすい比較の落とし穴
仮に平均賃金の順位だけを並べると、物価の高い国と低い国の生活水準を同じように扱うことになる。高い賃金が、そのまま高い購買力を意味するとは限らない。
労働時間についても、平均値だけでは働き方の全体像は分からない。短時間勤務の人が多い国では平均労働時間が低く見える一方、フルタイム労働者の勤務時間が短いとは限らない。逆に、平均賃金が高くても、職種や雇用形態によって分布が大きく異なる可能性がある。
したがって、読者が知りたい「高賃金の国ではどれほど働くのか」という問いに答えるには、少なくとも賃金の定義、労働時間の定義、対象となる労働者、比較する時期をそろえる必要がある。さらに、名目額だけでなく物価を考慮した指標や、フルタイムとパートタイムを分けた確認も欠かせない。
今回の資料から言える結論
確認できる資料は、日本企業における賃金改定の動きを読むためのものだ。2021年の改定率は1.6%、2020年は1.7%だった。また、平均要求額は2021年が5335円、2020年が7136円である。ただし、これらの数値から、平均賃金が高い国の労働時間順位を導くことはできない。
ランキングは、数字が並んでいれば完成するものではない。何を平均し、どの労働者を対象にし、どの時期を比較したかが分からなければ、順位は読者の判断を誤らせる。今回のテーマを正確に扱うには、国別の賃金水準と労働時間を同じ基準で収録した資料が別途必要になる。
出典
- 厚生労働省「賃金引上げ等の実態に関する調査」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003356114
- 厚生労働省「企業規模別平均要求額、平均妥結額及び平均賃金改定率」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003356225
- 厚生労働省「企業規模別1人平均賃金の改定額、改定率」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003356100