「働いている」の中身を分けて見る
働いている人を考えるとき、就業しているかどうかだけでは、仕事のあり方までは分からない。同じ「就業者」でも、企業や政府などに雇われて賃金を受け取る人、自分で事業を営む人、家族の仕事を手伝う人など、立場は異なるからだ。
今回見る「賃金・給与労働者」の指標は、就業者全体のうち、雇用主との関係を通じて賃金や給与を受け取る人がどの程度を占めるかを示す。国や地域の雇用が、雇われて働く形を中心に成り立っているのか、それとも自営業など別の働き方が大きな役割を持っているのかを読む手がかりになる。
これは、賃金が高いか低いかを直接示す統計ではない。また、仕事の安定性、労働時間、社会保障へのアクセス、職場の安全性をそのまま測るものでもない。割合が高いからといって、働く人の待遇が一様に良いとは限らず、割合が低いからといって、雇用の質が必ず低いとも限らない。
三つの表は何を分けているのか
世界銀行の関連表は、同じ考え方を異なる分母で示している。全体の就業者を分母にする表と、男性の就業者、女性の就業者をそれぞれ分母にする表がある。分母が違うため、表を読むときは、どの集団についての割合なのかを確認する必要がある。
| 表の種類 | 分母 | 分かること |
| 全体の賃金・給与労働者 | 就業者全体 | 雇われて働く形が就業全体でどの程度を占めるか |
| 男性の賃金・給与労働者 | 男性の就業者 | 男性の就業者に占める雇用労働の位置 |
| 女性の賃金・給与労働者 | 女性の就業者 | 女性の就業者に占める雇用労働の位置 |
この分け方によって、全体の姿だけでは見えにくい男女の違いを検討できる。たとえば全体の割合が似ている国でも、男性と女性で雇用労働の比重が異なる可能性がある。その差は、産業構成、家族経営の広がり、就業機会、無償の家族労働の位置づけなど、さまざまな背景と関係しうる。
ただし、この指標だけで男女の賃金格差を判断することはできない。ここで比較しているのは、賃金を受け取る立場にある就業者の割合であり、受け取る賃金の金額や、同じ職種での待遇を比べているわけではないからだ。
国際比較で気をつけたいこと
国によって、仕事をする人の構成は大きく異なる。農業や小規模商店、家族経営が重要な地域では、自営業や家族従業者の比重が高くなりやすい。一方、企業や公的機関で雇用される仕事が広がっている地域では、賃金・給与労働者の割合が高くなりやすい。
そのため、国別の順位だけを見て、働き方の優劣を決めるのは適切ではない。指標は、雇用関係の広がりを示す入口として使い、産業、企業規模、就業時間、契約の形、社会保障などの情報と組み合わせて読む必要がある。
また、今回の表は「モデル推計」とされている。これは、各国の統計を単純に並べただけではなく、国際比較が可能になるように推計されたデータであることを意味する。国ごとの調査方法や定義の違いを調整する利点がある一方、各国の国内統計と完全に同じ数字になるとは限らない。比較するときは、精密な差を断定するより、雇用の形にどのような傾向があるかを捉えることが大切だ。
日本の読者が見るべきポイント
この統計から考えられるのは、「働いている人のうち、どれほどの人が雇用主との関係で賃金を得ているのか」という問いである。就業者数や失業率とは異なり、雇用の構造に目を向けられる点が特徴だ。
働き方が変化するとき、雇われる仕事が増えるのか、自営業や家族経営が残るのかによって、家計の収入源や企業との関係も変わる。全体の表だけでなく、男性と女性の表を照らし合わせることで、同じ労働市場の中でも、雇用される機会や働き方の構成が均一ではないことにも気づける。
この指標は、仕事の「量」ではなく、就業の「立場」を読むための統計である。数字の大小を評価する前に、誰を分母にしているのか、どのような雇用関係を捉えているのか、そして何までは分からないのかを確認することが、国際比較の出発点になる。
出典
- World Bank「Wage and salaried workers, total (% of total employment) (modeled ILO estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.EMP.WORK.ZS
- World Bank「Wage and salaried workers, male (% of male employment) (modeled ILO estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.EMP.WORK.MA.ZS
- World Bank「Wage and salaried workers, female (% of female employment) (modeled ILO estimate)」
https://data.worldbank.org/indicator/SL.EMP.WORK.FE.ZS